宇宙ちゃんねる (Uchu Channel)

宇宙ちゃんねる(Uchu Channel)を通して現役ロケット開発者がわたし自身が語る、ロケット開発の生の声、宇宙や星に関するいろんな情報を発信しています。 そして、この発信からいろんな人に宇宙に興味をもってもらいたい、日本の自然科学・宇宙産業をもっと活発にしたいと思っています。

なぜ ”はやぶさ、はやぶさ2”の再突入カプセル”は大気圏で燃えずに地球に帰還できるのか?

このエントリーをはてなブックマークに追加

小惑星リュウグウ”の地表の物質を採取できたはやぶさ2。帰還予定は今年の12月、意外とあっという間に近づいてきました。もう今年です。

 

地球に戻ってくるときは”大気圏突入!”でも燃えないのはなぜかをご存知ですか?

 

ここは”はやぶさ”で大成功したので”はやぶさ2”でもほぼ改良しなかった点でした。

 

僕はこの”はやぶさ2”の開発の一部にかかわったので、そんなお話をしていきたいと思います。

 大気圏再突入は超高温 

はやぶさカプセルは1万℃まで上がる

サンプルを地球再突入時に守るのが、僕も製作にたずさわった再突入カプセル

 f:id:Uchu-Channel:20200322075902j:plain

宇宙との境目,高度100kmで”大気圏突入”し、そこからは空気が存在してくるので空力加熱により地表に戻ってくるものは超高温にさらされるという現象がおきます。

 

※ ちなみに”大気圏”という言葉の意味は、対流圏→成層圏→中間圏→熱圏と僕たちが住んでいる地表から高度400kmほどの熱圏までを示しています。なので、100kmより高い位置でも大気圏なのですが、空気による加熱が始まるところ”大気圏突入”と呼んでいます。

 
隕石が地表に衝突する前に超高温でなくなってしまうのがほとんどなのはこの空力加熱のためです。
 
2010年に地球に帰還して映画にもなった”はやぶさ”、はやぶさ本体は空力加熱で燃え尽きてしまいましたが、小惑星のサンプルを採取したカプセルがオーストラリアの砂漠に帰還しました。
 
このカプセル、「なんで燃えなかったか?」というと、カプセルを形成する特殊な材料
によるものなのです。
 

f:id:Uchu-Channel:20170422011041g:plain

(JAXAさんより引用) 
 

温度の上がり方はスピードと高度で決まってくる

ちなみにはやぶさは1万℃ですが、宇宙飛行士が地球に帰ってくるときに使用されるロシアのソユーズでは約1500℃

この温度は再突入するものの速度と高度によって決まります。

f:id:Uchu-Channel:20200322100840j:plain

図は1326℃を保つには、高度に応じで速度を落としながらコントロールしていく必要があります。
 
速度を落とさずに落下した場合は超高温になり、耐熱が耐えれらなくなってしまいます。(図 赤線部:8km/s  5000℃近くなってしまう
 
 
この再突入時の温度の問題、スペースXは再突入時の減速をバルーンを使っておこなうことを考えていて、そうすることで今は1段ロケットだけ再使用しているものを宇宙空間まで飛んだ2段ロケットも再使用することを計画しています。
 
バルーンを使った技術は50年前ぐらいにNASAで開発されたものです。
 
すでにある技術にうまく利用してなるべくコストかけずに開発をすすめていくスペースXいやイーロン・マスク”コストを最も重視したロケット”のコンセプトがよくわかりますね。

f:id:Uchu-Channel:20200322102252j:plain

カプセルが燃えずに帰ってこれる3つの理由

カプセルの素材は炭素の繊維

f:id:Uchu-Channel:20200322072441j:plain

サンプルを熱から守るカプセル表面の材料はFRP:繊維強化プラスチックと呼ばれるものです。
 
車の内装や航空機の構造によく使われています。
 
繊維に樹脂を染み込ませたもので、それに熱と圧力をかけてつくるので、その時は炉にいれます。
 
使われる繊維は洋服で使われるような繊維とはかなり違うものです。
 
洋服の繊維は綿やシルクなどの天然の素材を使ったもの、ナイロン、アクリルなど石油から作られる合成繊維と呼ばれるものを使っています。
 
一方、FRPで使われる繊維の原料は炭素繊維(カーボン繊維とも呼ばれる)やシリカ繊維などがある。シリカは乾燥剤によく使われる”シリカゲル”のシリカと同じものです。
 
このカプセルは繊維としては炭素繊維を使っていて、原料となるものは先ほど洋服の原料として出てきた石油から作られる合成繊維を焼いて炭素だけにした繊維です。
 

この材料、すでに焼かれ炭素になっているので熱にはもちろん強い、そうはいっても耐えられるのは数千℃まで。

 

この炭素繊維が”燃えない”カギとなっている

 f:id:Uchu-Channel:20200322065613j:plain

 

空力加熱で表面の温度は1万℃にもなるので、さすがにこの材料でも熱で気化してきます。

 

材料は固体から気体になっていくわけなので、気体になる時、空力加熱熱を吸収して固体から気体になっていく。

これが、カプセル自体を熱から守る1つ目の効果となります。
 
(水が沸騰して、蒸気になるのも同じ原理です。水は100℃で気化しますが、水が気化(蒸発)して熱を解放することでその100℃を保持しているわけですね。)
 
また、熱分解されたこの気体は”ガス”となるので、これによって直接表面が高温にさらされることを防いでくれる”シールド”になります。これが2つ目の熱から守る効果です。
 
気化した材料の残りは炭素繊維が炭化してものです。ロケットの燃焼試験などで炭素繊維が高熱でさらされたものを見る機会がありますが、本当に”炭”状態。
 
バーベキューの燃えカスでも残っているように熱には更に強い材料としてして残ります。
 
これが最後、3つ目の効果です。
 
なので、ぼくらが作る時に気を付けることは温度と圧力をうまくコントロールして、 われないように固める です。

 

固めたばかりは割れていなくても、時間が経ったり、削ったりすると内部の力が外にでてきて”割れていた”なんてことがあるので、温度と圧力の条件をいろいろ変えてベストのものを導いていきます。トライ&エラーを繰り返すわけですね。

 

そんな風にして作られるカプセルは3つの理由で燃えることなく戻ってくる。

 
この圧倒的な耐熱性を持っている材料は、ロケット・はやぶさなどで独自のもので、やっぱり値段が高い。
 
今後安くしていくには車などに使われているものを少し改良するだけでと同じ性能の材料をつくっていく。
 
スペースXと同じ作戦でコストを抑えていくようなことが、再使用しないロケットが再使用ロケットに対抗するポイントになってくるのだと思います。